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 技術解説(Technical Comments)

ここでは、アニメーションを使って各アンテナやマイクロ波回路の動作原理の概要を説明します。詳しくは論文をご参照ください。

各種給電回路 (Feed Circuit)

円形アンテナ用

同軸モード給電
(Coaxial Mode Feed)

同軸モード(円筒波を励振)

 ラジアルラインスロットアンテナ(RLSA)の給電に使われます。ハの字のスロットペアを同心円状に並べると、同軸モード給電方式では円錐(conical)ビームが出るので、ボアサイト方向にペンシルビームを放射するためには正面で位相が揃って電磁界が強め合うようにハの字スロットペアを螺旋状に配置する必要があります。

  • M. Natori, M. Ando, and N. Goto, "A Design of Coaxial-to-Radial Line Adapters in Radial Line Slot Antennas," IEICE Trans., Vol.E73, No.11, pp.1874-1879, Nov. 1990.
回転モード給電
(Rotational Mode Feed)

回転モード(螺旋状の波)

 上の同軸モード給電でラジアルラインスロットアンテナ(RLSA)を給電し、正面にペンシルビームを形成するにはハの字スロットペアを螺旋状に配置しなければなりません。しかしRLSAの素子数(スロットの周)が少ないときには、解析モデルでは周期境界壁を用いるので、スロットを螺旋状に配置すると外部および内部の構造が解析モデルと大きくずれてしまうことが懸念されます。そのときは、ハの字スロットペアは同心円状に並べておき、励振波として回転モード(周方向で振幅は一様ですが、位相は線形に360°傾いています)を用います。回転モード励振用のマイクロ波回路としては、空洞共振器、マイクロストリップ線路を用いたリングスロット、方形導波管短絡面上リングスロット、短絡方形導波管広壁面上クロススロットなどがあります。現在は短絡方形導波管広壁面上クロススロットが簡単な構造、製作の容易さ(誘電体基板不要)などから有力な候補と考えています。

  • Kaoru SUDO, Takuichi HIRANO, Jiro HIROKAWA, and Makoto ANDO, "A Radial Line Slot Antenna Fed by a Rectangular Waveguide through a Crossed Slot," IEICE Trans. Communication, Vol.E86-B, No.10, pp. 3063-3070, October 2003.
  • Kaoru SUDO, Akira AKIYAMA, Jiro HIROKAWA, and Makoto ANDO, "A Millimeter-Wave Radial Line Slot Antenna Fed by a Rectangular Waveguide Through a Ring Slot," IEICE Trans. Communication, Vol.E84-C, No.10, pp.1521-1527, Oct. 2001.
  • Akira Akiyama, Jiro Hirokawa, and Makoto Ando, "APERTURE COUPLED PLANAR FEED CIRCUITS FOR ROTATING-MODE RADIAL LINE SLOT ANTENNA," APMC pp. 46-49, paper number 203, (Sydney, December 2000)
  • 木暮勇治、秋山章、広川二郎、安藤真, "リングスロットを上部導体板に配置したラジアルライン励振用平面回路," 電子情報通信学会総合大会, B-1-102 (慶応大学 日吉キャンパス, 3/25-3/28, 1999)
  • Tatsuya Yamamoto, Jiro Hirokawa, Makoto Ando, and Naohisa Goto, "An Analysis of an Electric Wall Type Cavity Resonator for Concentric Array Radial Line Slot Antennas," PROCEEDINGS OF ISAP'96, CHIBA, JAPAN, pp.337-340 (Sep. 1996)

矩形アンテナ用(導波管電力分配器)

π分岐
(Pi-Junctions)

同相給電用(for co-phase feed)

 各放射導波管を同相・等振幅で励振するπ分岐(Pi-Junction)です。π分岐は給電導波管の1管内波長おきに置かれており、同相給電されます。分配の基本単位である1つのπ分岐では、電力がπ型に分配されるので、π分岐といいます。

  • Tsukasa Takahashi, Jiro Hirokawa, Makoto Ando, and Naohisa Goto, "A Single-Layer Power Divider for a Slotted Waveguide Array Using π-Junctions with an Inductive Wall," IEICE Transactions on Communications, Vol.E79-B, No.1, pp.57-62, Jan. 1996.
  • 後藤尚久, "一層構造の導波管を用いた高能率平面アンテナ," 電子情報通信学会技術研究報告, AP88-39, pp.39-43, July 1988.
T分岐
(Tee-Junctions)

逆相給電用(for alternating-phase feed)

 各放射導波管を逆相・等振幅で励振するT分岐(T-Junction)です。T分岐は給電導波管の1/2管内波長おきに置かれており、逆相給電されます。分配の基本単位である1つのT分岐では、電力がT型に分配されるので、T分岐といいます。

  • K. Sakakibara, Y. Kimura, A. Akiyama, J. Hirokawa, M. Ando, and N. Goto, "Alternating Phase-fed Waveguide Slot Arrays with a Single-Layer Multiple-Way Power Divider," IEE Proc. Microw. Antennnas Propag., vol.144, No.6, pp.425-430, Dec. 1997.
十字分岐
(Cross-Junctions)

逆相給電用中央給電 (center feed for alternating-phase feed)

 各放射導波管を逆相・等振幅で励振する十字分岐(Cross-Junction)です。十字分岐は給電導波管の1/2管内波長おきに置かれており、逆相給電されます。分配の基本単位である1つの十字分岐では、電力が十字(Cross)型に分配されるので、十字分岐といいます。

 最終スロットまでの経路長をT分岐に比べて短くすることができるので、長線路効果による狭帯域化を改善することができます。また、左右のビームは周波数変化によって互いに違う方向に傾くので周波数変化によるビームの傾きも小さく抑えることができます。

  • Se-Hyun PARK, Jiro HIROKAWA, and Makoto ANDO, "A Planar Cross-Junction Power Divider for the Center Feed in Single-Layer Slotted Waveguide Arrays," IEICE Trans. Communication, Vol.E85-B, No.11, pp.2476-2481, November 2002.

 

導波管スロットアレー (Slotted Waveguide Array)

Longitudinal Shut Slot

-1st-null beam-tilting, Linearly polarized wave

TE10 wave ⇒
TE10モードの磁界とスロット上の磁流が結合

 導波管スロットアンテナの中でもスタンダードなLongitudinal Shunt Slot(導波管軸に平行に切られたスロット)です。スロットを交互に導波管軸の左右にオフセットして配置します。上の図のようにTE10モードの磁界とスロット上の磁流が結合します(物理的な意味としては、スロットが導波管内壁に流れる電流の流れを塞き止め、コンデンサのように振る舞いスロットの幅方向に電界が発生して外部に電磁界が放射されます)。オフセット量で放射量を、スロット長で透過位相が0になる(共振スロット)ように制御します。スロットパラメータはアレーユニットセルのモーメント法解析で行われます。詳細は下記の論文を参照してください。スロットは1/2管内波長おきに配置されますが、1/2管内波長にピッタリ合わせると各スロットからは微小ではあるけど反射があり、それらが入力ポートで強め合ってしまうために、普通はスロット間隔を1/2管内波長から少しずらします。上の例では少し縮めた場合で、各スロットからの反射波が入力ポートで打ち消すように最初のスロットから最後のスロットまで線形に360°励振位相がずれるようになっています。その影響で、メインビームは正面にはならず、少し手前に傾いて(ビームチルト)います。さらに、このようにすると正面ではちょうど各スロットから放射された電磁界が打ち消すので、指向性では正面がnullになっています。他にも反射波が入力ポートで打ち消すようにするには360°最初から最後のスロットに向かってずらすだけでなく、360°×n (nは0でない整数)だけずらしても構いません。上の例ではn=-1の例です。したがって、この反射抑圧の方法を-1st-null beam-tiltingと呼びます。

  • Y. Kimura, T. Hirano, J. Hirokawa and M. Ando, "Alternating-phase fed single-Layer slotted waveguide arrays with chokes dispensing with narrow wall contacts," IEE Proc. Microw., Antennas Propag., Vol.148, No.5, pp.295-301, October 2001. (Alternating-phase fed single-layer slotted waveguide arrays)
  • K. Sakakibara, J. Hirokawa, M. Ando, and N. Goto, "Periodic Boundary Condition for Evaluation of External Mutual Couplings in a Slotted Waveguide Array," IEICE Trans. Commun.,Vol.E79-B, No.8, pp.1156-1164, Aug. 1996. (Co-phase fed single-layer slotted waveguide arrays)
クロススロット
(Crossed-Slot)

Leaky-wave (Beam-tilting angle 50deg), Circularly polarized wave

TE10 wave ⇒
TE10モードの磁界とスロット上の磁流が結合

 円偏波放射素子であるクロススロットを用いた導波管スロットアンテナです。2つの領域の波長の差でビーム方向が決まる漏れ波励振をし、ビームを正面から大きくチルトすることができます(上の例では50°)。例えば衛星放送を受信するためにアンテナを水平に置いてビームを仰角面内で衛星の方向に合わせ、水平面内でアンテナを機械的に回転させて方位角も衛星方向に合わせれば、低姿勢(low-profile)で薄型(planar)の衛星放送受信アンテナが出来ます。これは車の天井などに載せて衛星放送を見ることができる移動体用衛星放送受信アンテナとして実用化されています。

  • Takuichi HIRANO, Jiro HIROKAWA, and Makoto ANDO, "A Design of a Leaky Waveguide Crossed-Slot Linear Array with a Matching Element by the Method of Moments with Numerical-Eigenmode Basis Functions," IEICE Trans. Commun., Vol.E88-B, No.3, pp.1219-1226, March 2005.
  • T. Hirano, J. Hirokawa, and M. Ando, "Design of a Waveguide Crossed-Slot Array with Matching Elements Using the Method of Moments with Numerical-Eigenmode Basis Functions," IEEE AP-S Digest, Columbus, Ohio, US, vol.3, pp.1046-1049, June 22-27, 2003.
  • T. Hirano, J. Hirokawa, and M. Ando, "Waveguide matching crossed-slot," IEE Proc. Microw., Antennas Propag., vol.150, no.3, pp.143-146, June 2003.
  • T. Hirano, J. Hirokawa, and M. Ando, "Method of moments analysis of a waveguide crossed slot by using the eigenmode basis functions derived by the edge-based finite-element method," IEE Proc. Microw., Antennas Propag., vol.147, no.5, pp.349-353, Oct. 2000.
  • J. Hirokawa, M. Ando, N. Goto, N. Takahashi, T. Ojima, and M. Uematsu, "A Single-Layer Slotted Leaky Waveguide Array Antenna for Mobile Reception of Direct Broadcast from Satellite," IEEE Trans. Vehicular Tech., vol.44, no.4, pp.749-755, Nov. 1995.

 

平行平板ポスト壁導波路 (Parallel Plate Post-Wall Waveguide)

平行平板ポスト壁導波路
(Parallel Plate Post-Wall Waveguide)


Teflon (er=2.17, tan δ=0.00085 at 10GHz)
Transmission Loss: 0.11dB/cm, Insertion Loss: 0.56/2=0.28dB at 61.25GHz

 平行平板ポスト壁導波路は電子回路のプリント基板(PCB, Print Circuit Board)の上下の導体(銅箔)をポスト壁と呼ばれる金属メッキされた穴で電気的につなげ、ポスト壁を多数並べて方形導波管の狭壁を模擬します。ポスト壁の加工はスルーホール(through hole)またはビアホール(via hole)と呼ばれる電子回路のプリント基板加工技術を用います。開放構造のマイクロストリップ線路に比べて電磁界の周囲への広がりがなく、閉構造のため外部の電磁界を拾うことも無いのでEMC(EMI, EMS)の観点からも優れています。また、マイクロストリップ線路に比べて基板を厚くすることができるため、上下の導体に流れる電流密度が小さくなり、導体損を低減できるという特徴があり、特にミリ波では魅力的です。

 現在、ポスト壁導波路-方形導波管の広帯域変換には成功しています。実用化のためには種々の導波路間で自由自在に変換し、接続できるようにする必要があるため、ポスト壁導波路-同軸線路、ポスト壁導波路-マイクロストリップ線路等さまざまな変換器の研究も行っています。

 平行平板ポスト壁導波路のアンテナ応用例が平行平板ポスト壁導波路スロットアレーであり、他にもバトラーマトリックス、導波管フィルタなどの様々なマイクロ波回路に応用されています。

  • T. KAI, J. HIROKAWA, and M. ANDO, "Feed through an Aperture to a Post-Wall Waveguide with Step Structure," IEICE Trans. Commun., Vol.E88-B, No.3, pp.1298-1302, March 2005.
  • T. KAI, J. HIROKAWA, and M. ANDO, "A Transformer between a Thin Post-Wall Waveguide and a Standard Metal Waveguide via a Dielectric Substrate Insertion with Slits Etched on It," IEICE Trans. Commun., Vol.E87-B, No.1, pp.200-203, January 2004.
  • J. Hirokawa, and M. Ando, "Single-Layer Feed Waveguide Consisting of Posts for Plane TEM Wave Excitation in Parallel Plates," IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol.46, No.5, pp.625-630, May 1998.

 

マイクロ波回路 (Microwave Circuit)

バトラーマトリックス
(Butler Matrix)


Teflon (er=2.17, tan δ=0.00085 at 10GHz)
Transmission Loss: 0.037dB/cm at 25.6GHz

 バトラーマトリックスは複数ある入力ポートのどのポートから電力を入力しても、出力ポートには均等に電力が分配されますが、それら出力ポートの位相の傾きは入力ポートによって違います。そして、どのポートから入れても出力ポートに現れる位相差は線形に傾く(傾きは異なる)ようになっています。これをアンテナに応用すると入力ポートを切り替えてビームを切り替えることができます(電子ビームスキャン)。上のものはポスト壁導波路に構成したアンテナ一体型バトラーマトリックスであり、マイクロストリップ線路などで構成した場合に比べて挿入損失が小さいのが特徴です。

 バトラーマトリックスの基本原理はデルタ関数の離散フーリエ変換と推移律(F[f(t-t1)]=F[f(t)] exp(jωt1))です。デルタ関数(ディラックのデルタ: δ)を離散フーリエ変換すると、(デルタ関数δ(t)のフーリエ変換は1なので)どの周波数のフーリエ係数も振幅は一様です。そして、デルタ関数を時間軸上で平行移動すると(δ(t-t1))そのフーリエ係数はどの周波数でも振幅は同じだけど、位相に傾きがつきます(F[δ(t-t1)]=exp(jωt1))。つまり、上の図で、左の入力ポートが時間軸に相当し、右の出力ポートが周波数軸に相当します。こうして、入力としてデルタ関数を与えてフーリエ変換することで出力ポートの位相の傾きを制御することができます。そして、バトラーマトリックスでは離散フーリエ変換する方法として、FFT(Fast Fourier Transform, 高速フーリエ変換)のバタフライ演算と全く同じアルゴリズムをマイクロ波回路(ハイブリッド, 移相器, 交差結合器)を用いて実現しています。そのシステマティックな設計に関しては、参考論文(T.N. Kaifas and J.N. Sahalos, "On the Design of a SIngle-Layer Wideband Butler Matrix for Switched-Beam UMTS System Applications," IEEE Antennas and Propagation Magazine, Vol.48, No.6, Dec. 2006.)の説明が明快です。

  • S. YAMAMOTO, J. HIROKAWA, and M. ANDO, "A Beam Switching Slot Array with a 4-Way Butler Matrix Installed in a Single Layer Post-Wall Waveguide," IEICE Trans. Commun., Vol. E86-B, No. 5, pp.1653-1659, May 2003.

Comments by T. Hirano (2004.8.14)

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